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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)508号 判決 1948年11月04日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人森茂、同永田菊四郎の上告趣意第三點について。

原判決によれば、その確定した事実は「被告人は當時雇傭中の金本某外五名が移動證明書を持っていないため同人等の主要食糧の配給を受けることが出来なかったのでその頃平沼某から譲受けた松本徳中外五名の移動證明書を利用して同人等を自己の同居人として虚偽の申告を為し自己の主要食糧配給通帳にその旨の登載を受け十數回に亘り長崎縣北松浦郡江迎町食糧營團江迎出張所係員に對し恰も前記松本徳中外五名が被告人方に同居しているものの如く装って右通帳を提出し因ってその旨誤信した係員から右松本徳中等の配給分として白米合計二八四瓩四九〇瓦及び押麥合計三〇瓩八四〇瓦の配給を受けてこれを騙取したものである」というのである。すなわち、松本徳中外五名は架空の幽霊人物であると否と問わず當時被告人方に同居していなかったというのであるから、被告人は右所轄食糧營團出張所においては同人等の配給分としては主食の配給を受けることはできなかった筈なのである。夫にも拘らず、欺罔手段を弄して係員を誤信せしめて同人等の配給分として主食たる白米及び押麥を交付せしめたというのであるから、詐欺罪の成立することは當然である。論旨は本件被告人の所為は金本某外五名のために、松本徳中外五名の移動證明書を利用して主食の配給を受けたに過ぎないのであって、所謂幽霊人口により不正受配したものではなく唯受配人名を異にするだけで受配人數は正しいのであり何等配給制度を阻害するものではないと主張し、宮城控訴院の判例を引用するのである。しかし右宮城控訴院の判決は、「正當受配資格者としては世帯主一人であるに拘わらず家族全員五人との虚偽の届出をして五人分の家庭用主食の配給を受けた」という事案において第一審判決が五人分の不正受配ありとし詐欺罪の成立を認めたのに對し、「不正受配は四人であって一人分は正當受配である」との控訴人の主張を容れ、論旨摘録の通り判示したものである。然るに本件においては前説示の如く、松本徳中外五名は判示食糧營團出張所からは主食の配給を受ける権利のないものであってその全部につき不正受配ということができるのであるから、右判決の場合とは大いにその趣を異にする。右判例の引用は適切ではないのである。

なお論旨は配給制度においては受配者の人數が大切なのであってその人名が甲であるか乙であるかは重要ではない、と主張するのであるが、なるほど本件の場合において松本徳中外五名はそれが假空の人物でないとすれば、わが国内の何處かでは所定量の主食の配給を受け得るのであるから、国全體の見地に立てば、被告人が同人等の名義で受けた主要食糧の配給も結局不正受配とならないようにも見える。しかし配給制度というものは、需要供給の原則に從う自由經濟に放任しては到底全国民に最小限度の必要量の分配を期待し得ない食糧事情に對處せんとして定められたものである。国は国民に所定量の主食を供給するため、豫め各地に実在する受配者の數を調査しこれに對應する配給機關を整備しその所要量をこれに輸送する等諸般の計劃を樹立してその圓滑な実施を期しているのであるから、本件におけるが如く現実に居住の變更がないにも拘らず虚偽の移動證明書を利用して各人が各所において任意に所定量以上の配給を受け得るものとすればこの制度の圓滑な運營を阻害することは必然であろう。しかのみならず、詐欺罪の被害法益は、不當に騙取せられる財物であり、配給制度そのものではない。從って被告人が前示食糧營團出張所係員を欺罔して正當には受配し得ない主要食糧を騙取した以上詐欺罪に問擬せられるのもまた已むを得ないのである。論旨は理由なきものである。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑訴第四四六條に從い主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 齋藤悠輔)

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